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【もっと知りたい英国刺繍】Goldwork(ゴールドワーク)の歴史−シルクロードを渡った金糸刺繍の物語

ごきげんよう。刺繍作家・英国王立刺繍学校講師の二村エミです。

今回は、Goldwork(ゴールドワーク/金糸刺繍)の歴史についてご紹介します。

Goldworkは、金属糸を使って刺す刺繍技法で、王室の衣装や教会装飾、軍服などにも用いられてきた英国刺繍の中でも特に華やかな技法です。

現在、インターネットラジオ配信「英国刺繍通信」では、Goldwork特集として3回の連載でお話ししており、今回が2回目となります。
この記事では、次のような内容をご紹介します。

  • 金という素材のはじまりー刺繍が生まれる前の装飾文化
  • 中国・インドの金糸刺繍とヨーロッパへの伝播
  • 英国での発展
  • 日本の古代のゴールドワーク
  • インターネットラジオのご案内
  • ゴールドワークを学んでみたい方へ
目次

金という素材のはじまりー刺繍が生まれる前の装飾文化

Map by Gorup de Besanez, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

金は、古くからその輝きが完璧さや贅沢、そして特別な存在であることを象徴し、宗教・権威・富を表現するために用いられてきました。

歴史をたどると、人類と金の関わりは紀元前4000年頃にまでさかのぼります。メソポタミアに住んでいたシュメール人たちが作った金の装飾品は、世界最古の金製品のひとつと考えられています。

布は単なる実用品ではなく、王や皇帝の衣服、装身具には金や宝石がふんだんに使われ、その輝きによって権力や威厳が表現されていました。

古代メソポタミア・ウル王墓出土「王妃プアビの頭飾り(復元)Photo by Mary Harrsch, licensed under CC BY 2.0

また、聖書の中にも金糸を織り込んだ布や祭服に関する記述が見られ、金は神の輝きを象徴する重要な素材であったことがわかります。

中国・インドの金糸刺繍とヨーロッパへの伝播

金銀糸を使った豪華な刺繍やテキスタイルは意外にも、もともとはアジアで生まれて発展したものなんですね。

中国では古くから絹と金属を組み合わせた装飾が発達していて、宮廷文化の中で豪華な刺繍が作られていました。
そしてインドでも金糸刺繍が発展し、王族の衣装などに使われていました。

ピーボディー・エセックス博物館(Peabody Essex Museum)所蔵、清時代の雍正帝(ようせいてい)期の龍袍(りゅうほう)
まばゆい黄金の輝き:ザルドジ刺繍のクッションカバーPhoto by Zanskar
, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

こうした技術は、シルクロードを通じて西へと伝わっていきます。

刺繍の歴史を辿る:シルクロードの交易ルートMap by Gisling
, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

英国での発展

東方から伝わった金糸刺繍は、中世ヨーロッパの教会文化の中で発展。イギリスではOpus Anglicanum(オーパス・アングリカヌム=ラテン語で「イギリスの作品」という意味)と呼ばれる教会刺繍が生まれ、ヨーロッパ中で高く評価されるようになります。

13世紀イギリスの至宝:オーパス・アングリカヌム(Opus Anglicanum)の祭服:メトロポリタン美術館蔵

そしてこの流れが、現在のGoldworkへとつながっていきます。

日本の古代のゴールドワーク

ところで、英国王立刺繍学校でゴールドワークと出会った時、ひとつ不思議に思っていたことがありました。

「日本には固い金属糸を使ったゴールドワークは伝わらなかったのだろうか?」

着物の装飾で見かける金糸は、糸の芯に周りに短冊状の細い金のフォイルを巻いたやわらかいもの。これは中国から伝わった技術だと言われています。

それに対して、インドや英国で使われる金糸は、もっと固いメタル糸です。

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その謎が解けるきっかけになったのが、2年次の「教会刺繍」の課題でした。この課題は本来、キリスト教の三位一体をテーマに、シンボル=十字架・聖人・動物=羊などを組み合わせて刺す伝統的な刺繍です。

ただ、私が在籍していた頃には、この3つに関連があれば、好きなテーマを選べるようになっていました。

そこで海外に行った日本人にありがちな発想で(笑)、「仏教」をテーマにしてみようと考えました。

2年次に3学期間・約300時間をかけて完成した作品。

そこから調べるうちに、日本には古くから「繍仏」という仏教刺繍の文化があったことを知りました。絶版の繍仏の本を取り寄せ読み進めるうちに、

「いつか実物を見てみたい」と思うようになりました。

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そしてその願いは16年後に叶うことになります。

2018年、奈良国立博物館で開催された「糸のみほとけ」展です。
仏教に関わる貴重な刺繍作品が、これでもかというほど展示された夢のような特別展でした。
当時雑誌の連載で、企画本部長様にインタビューさせていただきましたが、作品の保存状態を考えると、この規模での開催はとても難しく、おそらく今回が最後になるだろうとのことでした。

その場に立ちえたことは、本当に幸運だったと思います。

国宝「刺繡釈迦如来説法図(勧進本尊)」奈良時代(8世紀):奈良国立博物館所蔵

さらにこの時の特別講演「飛鳥から奈良時代に」( 講師:東京国立博物館客員研究員沢田むつ代氏)で、長年の疑問に対する答えを知ることになりました。

実は日本にも、かつては固いメタル糸の刺繍は伝わっていたそうです。
しかし時代とともに、日本では金箔の技術が高度に発展し、金箔を漆で和紙に貼り付け、短冊状に切ったものを絹の芯の周りに巻きつけた金糸が主流になっていったのだそうです。

この時の刺繍作品公募で賞をいただいた作品

このお話を聞いた時、Royal School of Needleworkで出会ったゴールドワークから始まった長い旅が、ようやくひとつにつながった気がしました。

少し大袈裟ですが、自分の中でひとつの区切りがついたような気持ちになったのをよく覚えています。

インターネットラジオのご案内

現在、音声配信「英国刺繍通信」では、Goldworkをテーマにした3回連続のシリーズを配信しています。

・前回:Goldworkについて・その魅力
・今回:Goldworkの歴史
・最終回:英国王室の戴冠式のローブとRSN

今回の配信では、Royal School of Needlework(英国王立刺繍学校)のスタジオにお勤めの雅子さんをお迎えし、肩の凝らないゆるやかな対談形式のおしゃべりで、ゴールドワークの歴史についてお伝えしています。

どうぞ、次回もお楽しみに。

ゴールドワークを学んでみたい方へ

ゴールドワークを始めとした英国刺繍の技法については、英国王立刺繍学校で学んだ技法をオンラインで体系的に学んでいただけるオンライン講座でも詳しくご紹介しています。

動画でステップごとに解説しているので、ご自宅でもご自身のペースで学んでいただけます。

最新の講座や英国刺繍のニュースをお届けしています。

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